【番外編】気仙沼ニッティング物語〜いいものを編む会社
100年後、「KESENNUMA」というブランドの編み物が、ニューヨーク並んでいるのかもしれない。
そんな、ことを感じさせてくれる本だった。
このブログは基本的には留学ブログなので、留学先で感じたことや授業の内容を以外は書かないことにしている。だが、コロンビア大学のJapan Tripで訪問させてもらった気仙沼ニッティングの社長、御手洗瑞子氏が書いた本が、面白かったので、訪問させてもった御礼もかねて、ここで紹介しておきたい。
気仙沼ニッティングとは、震災後、気仙沼で立ち上がったハイエンドな「手編み」の編み物を作る会社であり、この本はその起業物語なのだが、こんなに「等身大」な起業物語の本を他に知らないように思う。
一つ一つのプロセスで困った点や嬉しかったことが、素直な文体で綴られている。これから起業したいと思っている人にとっては、その追体験ができる、刺激的な本なのではないだろうか。
起業の追体験としてだけでも、十分に魅力的な本なのだが、それ以上に面白いと感じたのは、筆者が些細な日常や、土地の慣習・歴史等を記憶に留め、そこから多くを学んでいる点である。
例えば、本書の後半で、気仙沼で生活する中での気づきとして、地方ではフレキシブルな働き方ができる場所が少ないため、ただでさえ少ない働き手が、働く場を失ってしまっている可能性を指摘している。(気仙沼ニッティングは、「編み手」というフレキシブルな働き方を提供している )
そして何より、この本の読後感を心暖まるものにしているのは、筆者がスタッフを始めとした関係者や、気仙沼という土地に対して、敬意と愛着を抱いていることが端々から感じる点である。
あとがきに、筆者はこんな文章を残している。
「「復興を支援したい」というだけでなく、自分が楽しいから、気仙沼が好きだから、やる。そうでなくては地域の人といい関係を築けないですし、続かないと思うのです。」
こんな思いと行動の積み重ねが、100年続くブランドを育てるのかとしみじみと感じた次第である。
唯一、難点があるとすれば、「海外からも色々な人が来る」という紹介で、ハーバードビジネススクール(HBS)を取り上げ、我らがコロンビア大学公共政策大学院(SIPA)を取り上げていないことだろうか。
気仙沼ニッティングは、HBSのケースにも取り上げられているらしいので、自分が筆者でも、SIPAよりHBSを優先的に書くのは間違いないと思うが。
にしても、同年代がこぞって「学び」に行きたがるHBSに、すでに「学ぶ材料」を提供しているとは、脱帽するしかない。
上記の通り、色々な点で学びがあり、読んだ後に心が温かくなる本なので、興味を持って頂いた方は是非、本屋さんで手に取ってみて欲しい。
末永く続く会社を目指して起業したい(している)人
地方活性化に興味ある人
心温まる物語を求めている人
には、特に面白い本だと思う。