Columbia(MPA) to Cambridge(MBA)

コロンビア大学(SIPA)、ケンブリッジ大学(MBA)の留学体験記です

【コロンビアSIPA授業紹介】政治学者の起業家精神とPolitical Risk Analysis

「さて、今週は何が起きた?」

 

毎週、先生のこの一言から授業が始まる。 

等、Political Riskを巡る様々な話題を生徒が提起して議論が始まる。

 関係ない話題だったり、説明が不十分だったりすると、

 

「それはリスクだけど、どこがポリティカルリスクなのか?」

「経済にはどう影響があるのか?」

「なんで、この爆弾テロが大切だと思うのか?他のテロと何が違う?」

「So… what?」

 

と問い返される。

 

50%以上が留学生であることを反映してか、クラスメイトが提供する話題は多岐に渡り、「あれ、そんな事あった?」という思う話題もちらほら。

 

自分が知らない話題でも、議論についていけている人も多く、いかに自分が世界の情勢についていけてないかを、思い知る時間にもなっている。

 

この時間が30分くらい続いた後、その週の話題に移っていく。

 

内容は教科書である、イアン・ブレーマーの著書、The Fat Tail: The Power of Political Knowledge in an Uncertain Worldに概ね沿った内容をカバーしており、以下のような感じ。

  • Fat Tailとは何か?
  • ポリティカルリスクとは何か?
  • 地政学的リスクをどう分析するか?
  • 政治リスクのマクロ・経済・金融市場への影響
  • 政治リスクのある企業・産業への影響。

もちろん、毎回のリーディングは上記の教科書だけではなく、関連する論文が何個か指定される。

 

これを教えるのは、カリフォルニア大学バークレー校で政治学Ph.Dを取った後、ユーラシアグループでディレクターをしている人。

 

知見の広さ:

  • 生徒がどんな国の話題をふっても、基礎的な動向は確実に抑えている。

インサイト&ファシリテート力

  • 基本、授業の最初は、先生は質問しかしないのだが、質問—回答—先生の簡単なコメント&再度質問—生徒の回答、が繰り返されていくうちに、何となくその日の授業のまとめ的なものが板書に出来上がって行く。 

人柄:

  • ラテン出身のせいか、ひたすらポジティブ。

 

と3拍子揃っている先生で、授業も楽しい。

 

今日は、その先生が勤めるユーラシアグループのNY本社を訪問し、Founder and CEOのイアン・ブレーマーの話を聞く機会があった。

 

非常に印象的な訪問となったので、メモ。

 

ユーラシアグループ設立の経緯

  • スタンフォードで政治学Ph.Dを取得した後、政治学的なフレームワークは金融市場分析で活かせると思い、ゴールドマンサック等の金融機関で仕事を探していたが、相手にされなかった。
  • ある会社のインタビューで、「そんなに政治リスクの分析が、うちの会社の役に立つと言うのなら、何か分析して持って来てよ。面白かったら契約を結ぶよ。」と言われた。
  • この言葉をきっかけに就活を辞め、政治リスクが金融市場やその金融機関に与える影響を分析し、その金融機関に持っていった。
  • これが好評で、その金融機関は最初の顧客になってくれた。その後、自分を落とした会社に順番にその結果を持っていったところ、受け入れてもらえ、顧客層が広がっていった。
  • 今では、政治リスクコンサルティング会社として、世界中の数百の企業や政府を顧客に持ち、ニューヨークだけでなく、ロンドン等にもオフィスを構えられるようになった。
  • このように、自分は起業する意図は当初は全くなかった。ただ、誰も雇ってくれないので、自分で商品(分析レポート)を作り、売り歩いた結果して、起業になっていた。
  • 起業というと「リスクを取れ」とか、「VC」とかファンシーな言葉が飛び交うこともあるが、自分は外部資金を入れたことは基本的にない。

 

大切にしていること

  • 自分のモチベーションの根幹にあるのは、世界で起こっていることの真実の姿を伝えることで、正しい対応を喚起すること。
  • 顧客について:このミッションのため、基本的には、自分達の分析結果や提案が、その顧客企業や政府に対して不都合なものである場合、「拒否したり」「中身を変えるような圧力をかけたり」するような企業・政府は顧客にしないようにしている。
  • 組織体制:フラットな体制を敷いている。CEOは自分なので、組織の決定には自分が責任を持つが、分析の中身の議論をするときには、立場は関係ない。CEOの自分にも反論し易いような雰囲気になるように気をつけている。
  • 個人的なバイアス:自分はアメリカで生まれ育ち、英語を母国語とし、外国語はロシア語しか話せない。このことが、どのように自分の世界認識にバイアスを与えているのか、気をつけるようにしている。
  • 今は、この思いを広めるため、特に政治学者が、そのスキルを活かしつつ、シンクタンクやアカデミアではない活躍の場所を提供できるように、採用や研修にも力を入れている。
  • コロンビア大学(SIPA)やNYU(スターンMBA)で、授業を教えているのも、この活動の一貫だ。 その時間、レポートを書いていた方がお金にはなるのだが。

 

MBAで習うことのキーエッセンスの一つは、組織のミッション、戦略、組織体制等が一貫したものである必要があるということだと思っているが、ユーラシアグループは、それを体現している組織の一つであるように思う。

 

名政治リスクアナリストは、名経営者でもあるのかもしれない。